会社の中の羊飼い

 とある企業での話。ここは非常に激務で、皆さんどうしても恒常的に帰るのが遅くなってしまう、とのこと。社員の健康のこともあるし、残業手当など人件費コストのこともあるので、経営者としては業務の効率化を図って、何とか早く退社させたいと考えていた。
 で、業種がわかってしまうので詳しく書けないけど、今まで、ラベルに顧客名を手書きして次に袋詰していた(大体こんなところか)作業を、何年か前に結構大きな投資をして全て機械化したらしい。
 まあ、この作業そのものが激務の元凶というわけではないけれど、多大な時間を必要とする忙しさの一因であったことは確かだったのだろう。経営者は、従業員の大変そうな仕事ぶりを見るに見かねて、システム投資をして少しでも楽になるようにと思ったらしい。

 でも、導入前と導入後では仕事ぶりは変わった(楽になった)のに、一向に退社時刻は変わらなかった。まあ、経営者もそんな劇的に改善するとは思っていなかったけれど、せいぜい平均20分くらいは早くなればなぁ、なんて淡い期待を抱いていたんだろう。それが、全く変化なし

 で「何ででしょうね?」と聞かれたというわけだ。
 1日、その現場をぼんやり(しているように装って)観察していた。で、ひとつ気が付いたことは、現場の空気には「時間」という概念がない。いや「時間軸」がないといった方が正確だろうか。
 確かにものすごく忙しい、仕事もあれこれいっぱいある。でも、「いつまでに」とか「○時までに」終らせようとかといった時間区切りの意識が殆どないのだ。だから、仕事のペースは全ての作業がどれも一緒である。忙しい割に、慌しく時間が過ぎるというよりどよ~んと過ぎていく感じなのだ。

 これでは、個々の作業項目をいくら改善したとしても、全体の時間短縮にはならないだろう。空いた時間に他の作業時間がダラーと割り込んでくる、という図式が成り立ってしまうからだ。
 もっとも、こういうことはこの会社に限ったことではなくて、一般に激務、忙しい、と言われる業種でよく見られる現象である。俗に「忙しいのに慣れっこになってしまっている」ということだ。

 でどうしたらいいのか?
 こういう時間軸の意識の乏しい職場では、毎日夕方決まった時刻、例えば午後4時とか5時とかに管理職が「あとどのくらいかかる?」「何時までかかる?」「残っている仕事には何がある?」と、部下に聞いて回ることも一考に値する。

 ちょうど、牧場の羊の群れを羊飼いが追い立てるようなものだ。いや、場合によっては牧場犬かもしれない。人間は悲しい動物なんだろう、ここでこんなこと書いている私だって、集団の中に身を置くと、追い立てられないとメェーメェー鳴いてるだけで、なかなか動けない群れた羊になってしまうだろう。人間は時間軸を時計だけでなく、周囲の行動を見ながら頭の中で意識しているのではないかと思う。
 だから管理職が羊飼いになって、夕刻になったらタイムキーパーの役目を果たすというのは、時間軸を意識させるという点で、結構大きな改善につながることが多い。

 「管理職がタイムキーパーかよ」と思われるかもしれないが、管理職は何も部下の仕事の遂行を管理するだけではない。時間管理、というのも立派な管理項目なのだ。毎日夕方、部下に督促しつつ、業務の負荷を把握していけば、その日に本当に残業が必要か否かの判断も出来る。

 ちなみに、件の企業は、ホワイトボードをひとつ設けて、午後3時になったら、社員が退社予定時刻を自主申告で記入することとした。つまり、業務の多寡と目標時刻を見える化することで、社員に時間軸の意識を植え付けたわけである。

 結果は・・・?もちろん、もともとが忙しい企業だから相変わらず忙しい。しかし、仕事の少ない時には早く帰る習慣がつき、メリハリがついてきた。残業するにしても予め目標時刻が全員の見えるところに掲示してあるわけだから、ダラダラは出来ない。だから、平均して30分以上は早くなった。今は、まだホワイトボードの見える化効果が持続しているからいいけれど、いずれ消臭剤と一緒で効きが鈍くなるかもしれない。その時こそ、管理職がホワイトボードを背に牧場犬のように吠え立てて欲しいと願っている。

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